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解析力学(1) 仮想仕事の原理の意味と仮想仕事の原理を使う理由。

こんにちは、マーキュリーです。
 
今回は、解析力学の導入部分の説明を行っていきたいと思います。
 
解析力学の出発点として、仮想仕事の原理というものがあります。まず、この式を見てください。

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これが仮想仕事の原理です。f:id:feynmandiagram:20190211200546p:plainが一つの粒子に働く力の合計、f:id:feynmandiagram:20190211200742p:plainが任意の「仮想変位」と呼ばれるものです。「仮想変位」とは、物体を実際に動かすとかではなくて、物体のその地点からの任意の変位(数学的な意味での)ということです。仮想変位は、つまり任意のベクトルという事です。
 
そして、この「仮想仕事の原理」とは、原理といわれていますが、これを仮定としているわけではありません。この原理は、力のつり合いの式からくるものです。力のつり合いとは、

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というものでした。
(2)ならば(1)であるということはすぐにわかります。では(1)ならば(2)がなりたつかということですが、これは仮想変位を力に平行に取ってやればわかります。(仮想変位は任意なので様々な仮想変位を考えることが出来ます)力に平行にとってやると、(1)が成り立つならば(2)が成り立っていないといけないという事が分かります。このようにして仮想仕事の原理と力のつり合いが等価であるという事がわかります。
 
ここで、ひとつある疑問が湧いているひともいるでしょう。力のつり合いは力のつり合いでいいじゃないか!なぜそんな回りくどい書き方をするんだ!と。その理由は、力はベクトルであり、仕事はスカラーである、ということによるものです。聴いたことがある人もいるかもしれませんが、ベクトルよりスカラーのほうが取り扱いがしやすいのです。保存力の時にポテンシャルエネルギー(ポテンシャルエネルギーも仕事で定義されています)を考えたのも、そのような理由からです。なぜ、ベクトルよりスカラーのほうが取り扱いがしやすいのでしょう。それは、ベクトルが3成分もあるのに対し、スカラーは1成分であるからです。電場を求める際、電位を知ることが出来ていれば、それを3方向に微分してやれば簡単に電場を求めることが出来ます。わざわざベクトル3成分を分けて考えなくとも、電位というものに着目してやれば、あとは勝手に求まるのです。そのように、仕事に直すと解析的に扱いやすくなるのです。ポテンシャルエネルギーの例を挙げましたが、仮想仕事の原理では仕事に直すことで何がうれしいのでしょうか。まず、解析力学の目的は、運動方程式を別の形で一般的な形で整える、整備するということにあります。ニュートン運動方程式を書き換えていくわけです。
ニュートン運動方程式は次のように書き換えることも出来ます。

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この左辺は、元の力ー慣性力になっています。これを力のつり合いの式とみなし、先ほどの話から、これは仮想仕事の原理と等価であるので、

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と書き換えることができます。
 
このようにして、運動方程式までもスカラーにしてしまいます。先の話になりますが、この「スカラーにする」という作業のおかげで、軌道に対して「作用」というものを考えることが出来るようになります。そして最初と最後の位置と時間が与えられたとき、(ニュートン運動方程式を解く際にもこれは必要でした)任意の軌道のうちその「作用」が最小になるような軌道が実現されるという形で、ニュートン運動方程式は定式化されます。これを最小作用の原理またはハミルトンの原理といいます。それについてはまた今度説明していきます。
 
ベクトルだと3成分のどれがどうだとかよく分からなかったものがスカラーにすると、関数が最小だとか最大だとか傾きがどうであるとかそのようにして議論をすることが出来るようになるわけです。そのような定式化をしたほうが、解析力学運動方程式を整備するという目的にかなっていますよね。
 
 
 
 
 
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